義歯治療で終わりにしない! 咀嚼障害への対応
要介護高齢患者の咀嚼障害の要因は、歯周病や歯牙欠損、義歯不適などだけではありません。フレイルや神経性疾患、口腔乾燥などさまざまあります。
歯科治療により多少は噛めるようになっても、咀嚼障害の原因を明らかにして対応しないと、徐々に噛めなくなることが想定されます。
このため、歯科治療が終わったら、その他の咀嚼障害の原因を探る必要があります。
ここでは、咀嚼機能の評価方法と対応方策の一例をご紹介します。
咀嚼機能を診る3つの簡単なテスト
最初に、原始的な咀嚼機能を診断します。これには「サキイカテスト」が最適です。
【サキイカテスト】
患者にある程度の長さ・硬さのサキイカを自由に噛んでもらい、食べ物をぐっと噛もうとする動きや噛んだ後に舌で食べ物を移動させる動きを観察することで、舌や頬およびそれらの協調運動に問題がないかを判断できますし、原始反射が出ていないかを判断できます。
サキイカを用いる理由は、簡単には噛み切れずに長さがあるので、誤嚥の心配がないためです。
高齢者の原始反射は、大脳の広範な機能障害や前頭葉の病変を示唆する臨床兆候であるということが報告されていますし、原始反射の存在は栄養状態や誤嚥性肺炎の発症と関連するとされています。
次に、実施するのが「サクサクテスト」です。
【サクサクテスト】
少量で誤嚥の可能性が低い2gのハッピーターンを咀嚼・嚥下させて下顎の動きを観察します。
咀嚼時に下顎がただ単調に上下に動くだけではなく横方向にも動いていれば、食塊形成に必要な咀嚼運動ができていることになります。
もちろん、外部からの観察だけではなく、嚥下後に口腔内の残渣確認も行います。
最後に行うのが「ガムテスト」です。これは、咀嚼の総合評価を行うもので、簡易的な咀嚼力の目安が得られます。
【ガムテスト】
咀嚼チェックガムを1秒間に1回のペースで60回噛んでもらい、ガムの色の変化から咀嚼力を10段階で簡易評価します。
ここでも、噛んでいる最中の下顎の動きなどを観察するのがポイントです。
検査機材があれば、口腔機能低下症の精密検査である「咀嚼能力検査」でも同じです。グミを用いる場合でも、噛んでいる最中の下顎の動きなどを観察します。
咀嚼訓練の一例
咀嚼訓練にはさまざまありますが、研究ではガムを用いた訓練が多く採用されています。
【ガムを用いた咀嚼訓練】
朝と夜の1日2回、2分間はリズムを決めて、3分間は自由にガムを咀嚼します。
まだエビデンスは不足していますが、3ヶ月間は2週間ごとに歯科医師や歯科衛生師が指導を行って、その後12週間から24週間は自主訓練することで、咀嚼能力が上がると報告されています。
なお、患者の状況に応じて、咀嚼方法のアドバイスを行うことも重要になります。
【マウスピースを用いた咬合力訓練】
噛む力だけが弱い場合には、ソフトタイプのマウスピースを用いた訓練が有効との研究結果があります。
マウスピースを装着して、10秒間最大噛み締めを行って5秒休止します。これを連続5回実施するのがワンセットとして、1日2セット行います。これを4週間継続したところ、最大咬合力、咬筋の厚さ、筋の質(エコー強度)が改善したとの研究結果があります。
要介護高齢者の咀嚼機能は、全身疾患や薬剤影響、加齢などにより低下傾向にあり、咀嚼機能低下により、低栄養や誤嚥のリスクが高まります。
患者や家族は歯科治療により、少し噛めるようになると安心するかもしれませんが、歯科医療者としては、咀嚼機能の維持・向上を勧める努力が必要になります。
歯科治療後の咀嚼機能評価をもとに、患者や家族の意識を向上させ、咀嚼訓練等のリハビリに誘導することが大切です。
この講座を観ることで得られることは…
- 要介護高齢者の咀嚼障害に適切に対応できるようになります
- 咀嚼障害の診断のポイント
- エビデンスベースの咀嚼機能訓練方法と注意点がつかめます
- 咀嚼機能が低栄養および消化機能へ及ぼす影響とは?
- 患者や家族への咀嚼障害に関する指導方法がわかるので、訪問診療を継続してもらいやすくなります
この講座の内容
Part1:咀嚼について
CHAPTER 1 咀嚼の基本
- 摂食嚥下 5期(4期+1)モデル
- 咀嚼に関わるもの
- 歯の働き
- 舌の働き
- 筋肉の働き
- 脳・神経・感覚の働き
- 唾液の働き
- 咀嚼障害
- 高齢者における咀嚼障害の原因
- 歯:う蝕、歯周病、欠損
- 歯:義歯
- 舌:器質的障害、機能的障害
- 筋肉:オーラルフレイル、口腔機能低下症
- 脳・感覚:脳卒中、神経疾患、加齢変化
- 唾液:量の変化、質の変化
- 咀嚼機能が低下すると…
- 栄養素の摂取量の減少 低栄養のリスク
- 舌の運動に関連する 筋肉の活動
- 消化機能への影響
- 孤立・孤独との関連
CHAPTER 2 咀嚼機能の評価・治療・リハビリテーション
- どのように咀嚼を改善するか
- 咀嚼機能の評価
- グミを用いる検査①
- グルコセンサー
- グミを用いる検査②
- ガムを用いる検査
- 米菓を用いる検査
- ハッピーターン2g(3cm)
- “側方”の動きに注目
- さきいかを用いる検査
- さきいかテスト
- 『原始反射』が出現していないか
- 幼少期における咀嚼機能の獲得(概要)
- 咀嚼機能の治療
- 高齢者の咀嚼障害の原因
- う蝕、歯周病、欠損の治療
- 舌に対する治療
- 唾液に対する治療(的アプローチ)
- 部位別 咀嚼障害の原因となり得る疾患(例)
- 咀嚼の訓練
- 口腔機能低下症の資料が参考になりそう
- ガムを用いた訓練
- 咬合力が弱い場合…マウスピースを用いた訓練
- 高齢者において、咀嚼訓練は咀嚼能力を改善する?
- 咀嚼の指導
- 食品の工夫
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021
- ユニバーサルデザインフード
- 確認問題
Part2:診療場面(動画)
- さきいかを用いる検査
- 米菓を用いる検査
- グミを用いる検査
- 確認問題
- まとめ
- 咀嚼には様々な器官が関与する
- 咀嚼障害
- 高齢者における咀嚼障害の原因
- 脳と咀嚼
- 部位別 咀嚼障害の原因となり得る疾患(例)
- 咀嚼能力評価
などなど。


S.U. –
咀嚼機能の検査の方法がわかりやすかった
S.Y. –
サキイカを用いた検査は手軽で安全で取り入れやすいと思いました
M.U. –
グルコセンサーの具体的な使い方が分かりました
S.N. –
「咀嚼」に特化したお話を伺う機会があまりないので、大変興味深く、また面白く拝聴いたしました。今まで訪問診療に携わるなかで、どうしても「嚥下とむせ」にばかり意識がいってしまいます。今回のお話を参考にして、更に多角的な視点を持って患者さんと接していきたいと思います
R.D. –
咀嚼の仕組みを改めて見ることが出来て勉強になりました。咀嚼力をあげるための訓練も参考になりました